2003年12月号

茅ヶ崎方式英語会 本 校 会 報


留学体験記

元・C3会員 矢内圭子(NY在住)

 短大(経営科、コンピュータプログラミングコース)を卒業し、都内の会社に就職してまもなく、何か技術を身につけないと経済的な自立は難しい、 と考え始めた。その頃、気分転換もかねて、英会話を習おうと思いついた。短大に通っていた頃、父から、「単語や文法を知らなければ英語を聞き 取れないし、英語を聞き取れなければ話すこともできない」といわれ続けていた。また父が英語会に入ってから英語力が急激に伸びた、ということ だったので、茅ケ崎方式英語会に入ることにした。
2年ほど勉強しているうちに、英語を学ぶことが楽しくなった。力試しに受けたTOEFLで520点を取れたこともあって、 留学を真剣に考えはじめた。TOEFLの点数が、617点と100点近く伸びたのは、リスニング力の向上が一番大きいと思う。
 以下に、3年半の留学中に体験したことを思いつくままに書いてみる。留学を考えている方々に少しでも参考になればと思う。

大学 渡米2年後、それまで通っていたCommunity College(短大)から4年制大学へ編入したかったが、残念ながら不合格。志望大学を1校に絞っていたため、大学への編入が半年遅れる。また短大ではビジネスを専攻したが、大学では言語学に変えたため、卒業が大幅に遅れる見込み。ただ、編入が遅れてしまった半年間、The Writing CenterとESL (English as a Second Language)Lab.でインターンを行ない、コネを作った。現在もその両方でフルタイムの学生として学ぶと同時に、パートタイムで仕事を続けている。
  2000 Jun.  LaGuadia Community College 付属のESL School に入学
  2000 Mar.  City University of New York, LaGuardia Community Collegeへ編入
  2003 Jun.  City University of New York, Queens College(4年制大学)へ編入
 入学時、LaGuadia Community CollegeでのTOEFLスコアRequirement 450点を満たしていたが入学時のライティングテストのスコアが悪く、一番下のクラスに入れられる。短大、大学ともライティング教育に重点を置いていることがわかった。ライティングでは内容よりもグラマー、文章構成力が問われる。プロフェッサーは必ず「オフィスアワー」と呼ばれる時間を設定する。このオフィスアワーでは、プロフェッサーは質問に親身に答えてくれる。
 カウンセラーも親切な人が多いが、ミスも目立つ。留学生に関する規制を把握しているカウンセラーが少ないため、自分で状況把握をすることが必須だと感じる。特にビザ関係は法律が変わったりするケースもあり、細心の注意が必要。
 留学生は必ずI-20(学生として米国に滞在するために必要な書類)を発行する資格のある学校に所属しなければならないが、私を担当したカウンセラーはそれを知らずに、I-20発行資格を持たない学校へ編入することを強く勧めた。最初、カウンセラーは事情をすべて把握しているもの、 という前提で話しを聞いていたので、もう少しで編入手続きをとってしまうところだった。直前になって、念のため、と思ってI-20の発行手続きについて聞いた際、留学生は受け入れてもらえないということを知り、手続きするまでには至らずに済んだ。
 4年制大学編入にあたり、手引書に「高校を含め、これまで通ったすべての学校の成績書を願書と一緒に送ること」となっていたので、registrar's office(短大側)に、以前提出した書類を返してほしい、と頼んだが、そんな書類はここにはないから、international student office へ行くよう指示された。ところが、そのオフィスへ行くと、その書類はregistrar's office に保管されている、という返事。それまでも、書類手続きをする際にオフィスをたらい回しにされた経験があったため、registrar's office へ直接電話を入れてもらい、メモも一筆書いてもらった上でregistrar's officeへ戻った。すると、カウンセラーの一人が私のファイルを探し始め、数分で見つけ出した。ところが、中には高校の成績証明書がなかった。理由を聞いたところ、「その書類はここにはない、としか言いようがない。」といわれた。短大入学にあたり、その書類は必須なので、学校側が受理している事に間違いはないので、「ここにない、という事は、あなたたちがなくした、という事ですか」と粘ったところ、「そうじゃない。ここにないという事は、ただ単にここにない、という事なのよ。」と言われる。仕方なく新しい証明書を日本から送ってもらった。  留学生の場合、ある程度の成績をキープすることが要求される。大抵の生徒はその基準を楽にクリアするが、欠席には非常に厳しい。一つのクラスを15%以上休むとそのクラスの単位が取得できないうえ、成績に悪い影響を与える。病気などでクラスを休む場合、証明書を提出すれば「Incomplete」とみなされ、成績に影響しないが、そのクラスをとり直さなければならない。

仕事 留学生が仕事をすることが許されているのは、学校内のみ。しかも、政府から助成金を受けて学校に通っている生徒が優先されるため、自費留学生の多い日本人に対する仕事の枠は極端にせまい。そのため、NYでは規制が甘いという事もあり、日本食レストラン等でアルバイトをする人もかなりいる。
 私はチュータをするための技術を学ぶクラスをとり、そのプロフェッサーのコネを通して働いている。The Writing Center、ESL Department でまずインターンをし、その後、パートタイマーとして正式に雇用された。コネがない場合、仕事を見つけるのは大変だが、逆にコネがあればスムーズに仕事に就ける。私がコネを作るのが特に上手、ということではなく、まじめに授業を受けていたので、プロフェッサーが私を信頼して仕事を紹介してくれた、といった方が正しいかと思う。このように、アメリカ人は個人の努力を買ってくれるケースが多い。

 私の主な仕事(チュ―タ見習を含む)は、次のとおり。

 ・The Writing Center:ライティングの補修指導を行う部署(10時間/週、時給10ドル)
  授業で使うウェブサイトの管理:
   −指定されたクラスを受講する生徒の名前とパスワードのウェブ上への登録とその管理
   − パスワードがうまく作動しないケースがある場合、パスワードの変更
  チュータ見習:
   −The Writing Center に所属するチュータのセッションを見学
    (チュータはエッセイのリライトやリサーチペーパーの個人指導を行う)
   −自分が書いた文章についてチュータを受ける
   −チュータになるための技術指導を受ける(心構え、グラマー等々)

 ・ESL:(10時間/週、時給15ドル)
  Labでのクラス指導:
   −プロフェッサーが添削したエッセイの書き直しの指導やグラマーの演習が中心。
    二人のチュータでクラスを担当する
  ライティングの個人指導:
   −多くのプロフェッサーは、生徒のエッセイを添削した後、リライトして再提出す
    るよう求めてくる。そのため生徒は添削されたエッセイを持って、チュータを予
    約する。予約スケジュールに従い、一人につき45分の個人指導を行う
  プロフェッサーとペアでクラスを担当(Co-Teacher)
   −クラスでグラマーのエクササイズを担当

 日本でのOL経験と比べ、特に違いを感じることは、学生として学びながらのパートタイムのチュータ、しかも留学生にもかかわらず、担当Labやクラスの進行、責任は完全にまかされる、という点である。わからない点は上司に確認するが、様々な判断力が問われるケースも多い。実際、Co-Teacher として働く場合、プロフェッサーから自分がクラスでどこまで担当したいかを最初に聞かれる。また、クラスを進めていくうえで、どのパートのエクササイズをするべきか等、意見を求められることも多々ある。ESL Labと同様、 The Writing Centerでも、週に10時間という中での仕事の進め方は完全に任されている。

人間関係 NYに行った当初、日本人の友人から、「NYは大都会で、人間関係が希薄なため、アメリカ人と親しくなるのは大変だ。」という話を聞いた。私も最初は英語力不足もあり、日本人以外の人達との交流に苦手意識を感じていたが、日本人からすると親しみやすい韓国人や中国人と友達になったのをきっかけに、様々なイベント、ボランティア活動、非利益団体による英語指導、ホームステイ等に積極的に参加し、今は、たくさんの素晴らしい人達(白人、ヒスパニック、黒人、アジア系を含む)に出会い、彼らとの付き合いを通し、多くのことを学んでいる。
 最初は、特にアメリカ人との付き合い方がわからず、白人に対する違和感を強くもち、腫れ物に触るかのような付き合い方をしていた。が、そのうちに、個人の性格や特性が、各々の独特の文化に当てはまらないことも多く、また、人種や文化は違っても、人間として共通する部分の方が多いということに気づく。リズム感の悪い黒人もいれば、日本人よりも几帳面な白人もいる。また、アメリカ人は率直な話し方をする人が多いが、同時に、日本人よりも相手の気分を害さないよう、言い回し、態度に対する大変な気配りに驚くことも多々ある。
 アメリカ人は、「あなたの事を話してください」、「この問題についてどう思いますか」等、意見を求める質問をすることが多い。これは、友人との付き合い上だけでなく、クラス内でも同様。自分の事、出来事について説明する能力を求められる。実際、アメリカ人は話し上手、説明上手が多いように思う。最初私は、こんな事を言ったら、嫌われるのではないか、相手が困るのではないか、バカだと思われるのではないか、といった不安から、自分の意見(特に反対意見や上司に対する意見)を言うことにためらいを感じることが多かった。が、時間が経つにつれ、アメリカ文化では、自分の意見や意志を言うことが喜ばれるだけでなく、必須であるということに気づく。未だに日本人的な感覚が抜けておらず、アメリカ人から見たらまだまだ受身で意思表示も貧弱だろう、と認識しているが無理をせず、日本人としての自分の価値も大事にしつつ、これからも徐々になじんでいけたら、と思う。また理解されにくい部分があることも事実だが、日本人としての良い部分を周りの人達が認めてくれている部分も強く感じる。
日本人に対するイメージ アメリカ人やアメリカに住む外国人から見た日本人のイメージは好意的なものが多い。特にNYには中国人を始め、韓国人やインド人等、アジア系住民が多いため、日本人や日本文化に対する理解も深いように感じる。日本人は頭がいい、きれい好き、勤勉、礼儀正しい、と言われていることをよく耳にする。実際、アパートのオーナーも日本人を好む人が多く、部屋を探す際に有利なケースもある。ただ、一方で、自分の意見が言えない、受身、クラスで発言しない、何を考えているのかわからない、ブランド品を買いあさっている、というイメージが根強いことも確かである。

生活  NYの物価は東京に比べるとまだ安いといわれているが、アパートで一人暮らしをするには、家賃だけで最低でも月750ドルはかかる。一番安くあげる方法はルームメートを持つこと。私の場合、3年半の間に5人と部屋をシェアした(マンションまたは日本でいう二世帯住宅の一世帯分を2人でシェア)。私は他人と住んだ経験はなかったので、自分の都合ばかり相手に押し付けてしまい、最悪な形でシェアを解消することもあった。ルームシェアはストレスも多いが、安全面では一人で住むよりは安心。  シェアをする場合、最初の契約時に光熱費が家賃に含まれるのか、または毎月折半するのか、共用するものを買う際、費用をどちらが負担するのか、または折半するのか等、細かなことまで明確にするべき。
 基本的に、その部屋の名義人の立場が強くなるのは必然。名義人の都合で追い出されたりする場合もあるので注意。ただ、追い出す場合は、一か月前に言うのが暗黙の常識だが、事前に必ず確認しておいた方がよい。自分が部屋を借りてルームメートを募集する場合、細かな条件も自分で設定できる。が、ニーズに合わなければルームメートがみつからず、家賃すべてを自分で支払わなければならない。ルームメート募集の広告は、日系スーパーや本屋、学校の掲示板に貼り出されている。ネット上での募集も多い。
 部屋の契約は大きく分けて二つの方法がある。一つは不動産屋を介するもの、もう一つは大家さんと直接契約を結ぶもの。不動産屋を介すると、自分で部屋を探す手間が省ける上、何か問題が発生した場合、不動産屋が間に入るため、簡単ではある。が、仲介料は年間家賃の20〜30%と、とても高い。たまに、大家さんが直接、掲示板やウェブ上でテナントを募集することがある。その場合、一か月分の家賃とデポジット(年間契約を完全に終えて出て行く場合、ほぼ必ず戻ってくる)だけですむ。すでにテナントになっている人に大家さんを紹介してもらうのも手。
 アメリカは湿気が少ないせいで建物が長持ちするのか、築100年近い建物が少なくない。例え入居前にリノベーションが行われても、キッチンと部屋との間のドアが取り除かれていたり、窓の鍵が閉まらなかったり、床に隙間があったり、ということも多い。また、気をつけたいのがゴキブリ等の害虫。部屋にネズミが出るということを耳にする。清潔さに対する考え方が日本とはまるで違うので、ある程度の覚悟があった方がいいと思う。

治安 NYの治安は良いといわれている。実際、アメリカに長く住んでいる日本人の知り合いの中には、「最近は日本の方が物騒じゃないか。」という人もいるほど。ハーレム内に一人暮らししている日本人女性も少なくない。ただ、やはり、T.P.O.をわきまえるのが一番大切。ハーレム内に住む友人は、アパートの目の前で3人組みの男に殴る、蹴るの暴行を加えられた。バッグを抱えて攻撃から身を守っていたので何もとられなかったが、数週間たっても、あざが残る程だった。また、その場に居合わせた白タクの運転手は、助けを求めても車から降りてくることさえしなかったという。
 行動を自粛し、自分の身は自分で守る覚悟が必要。新しい場所ではとくに、どこが安全で、どこが危険なのか、事前に知っておくことが大切。